今訪れるべき国をあげるなら僕はキューバと答えます。
アメリカとの国交が回復し、これからどんどん色んな資本が入ってくるキューバ。
wi-fiもなかった2014年の年末。
現在では町の中心地にはwi-fiがあり、有料で使う事ができるそう。
どんどん変わっていくキューバには今だからこそいくべきなんだと思います。
そんなキューバで僕はこんな体験をしました。
キューバのハバナで夜に一人でBARに行く男
時間は夜20時。
キューバ名物のロブスターを食べた僕はその日の食事にすっかり満足していた。
宿に帰ってしばらく休憩をした後、僕はヘミングウェイが通っていたというBARへ足をのばした。
ヘミングウェイのことはよく知らなかったけれど、せっかくハバナにきたんだから記念に彼が通ったBARで彼が愛したカクテル“モヒート”を飲んでみようと思った。
宿からBARまでは徒歩圏内。
時間はまだ夜の20時。
海外で夜に外を出歩くのは危険かもしれないけれど、大丈夫だろう。
ここはハバナ。
キューバで何かトラブルにあったという話は聞いたことがない。
それどころか、キューバはとっても平和な国だという風に聞いていた。
けれど用心するに越したことはない。
手荷物は最小限にしよう。
クレジットカードだって必要ない。
現金だけ持っていけばいい。
そう思い、僕は30CUC(当時のレートで3600円程度)を財布から抜き取り、ポケットに入れた。
そして地図用にGPSがついているiPhone。
せっかくなら写真を撮りたいと思い、iPod touchも持っていくことにした。
一眼レフは置いておこう。
万が一という事もありえるかもしれない。
美味しいカクテルをバーテンダーと召し上がれ
BARに到着したのは21時前だった。
もともと一杯だけ飲めればそれでいいかなぁと思っていた。
『モヒートを一つください』
そう店員に伝えると、店員はにっこりと笑いモヒートを作り始めた。
『日本人?』
そう僕に尋ねながら、ミントのいい匂いがするモヒートを出してくれた。
『はい。日本人です』
スペイン語で僕は答えた。
『日本人が最近よくBARにきてくれるよ』
どうやらそのBARは日本人に有名になってきているらしい。
僕は知っている限りのスペイン語でバーテンダーと会話をした。
とはいっても、なんでもスペイン語で話せるわけではない。
時折英語を交えながらの会話。
彼は僕がスペイン語を少し理解できる事を喜んでくれていた。
話ははずみ、彼は僕にもういっぱいカクテルを作ってくれた。
キューバの名産ハバナクラブを使ったカクテル。
キューバリブレ。
甘いコーラとラムが混ざった日本でも有名なカクテル。
『日本人はこれが好きでしょう?これは私からのサービスです。キューバにきてくれてありがとう』
彼はそう僕に伝えた。
『はい。そうですね。ハバナクラブはとても日本で人気があります。』
僕はラムを飲む事はあまりなかったけれど、ハバナクラブの存在は知っていたし、実際に日本でも飲んだ事があった。
僕は彼がしてくれた“思いがけないサービス”が嬉しかった。
『あなたはモヒートが好きですか?』
僕はバーテンダーに尋ねた。はいとこたえるバーテンダーの男性。
『僕からあなたにモヒートを一杯ご馳走させてください』
僕らの会話はさらに弾んだ。
映画館。上映後、その場所は人々が集う場所になる
結局一杯だけ飲んで帰るつもりが3杯も飲んでしまった。
時間は22時半。
明日の朝も早くから移動だし、それにあまり遅くなりすぎるのは平和なキューバといえど危険かもしれない。
『ごちそうさま。もしまたキューバにきたら美味しいお酒を飲みに来ます』
僕は店を去り、宿の方へと歩いて行った。
BARを出て10分ほどの場所にたくさんの人が集まっていた。
さっき通りかかった時は誰もいなかったその場所は、映画館だった。
どうやら映画が終わって客が外に出てきたんだろう。
しかし、誰一人帰る気配がない。
多くの人がその場に集まったまま、会話を楽しんでいる。
中には次の映画を待っている人もいるらしい。
日本なら映画が終われば、すぐに映画館を去るだろうけれど、キューバではどうやら映画を観終わった後、映画館の前でみんなと一緒に話をしたりお酒を飲んだりするようだ。
とても楽しそうにしているキューバ人。
少しだけならいいかな、と思い僕は楽しそうに話をしているキューバ人の写真をiPod touchで撮影した。
『Hello』
10分ほどその場にいると、一人の黒人男性が声をかけてきた。
英語が上手という訳ではないけれど、僕がアジア人だから英語で話しかけてきてくれたんだろう。
僕は彼としばらく話をした。
しばらく話をしていると、彼の元に数名の友達が集まり始めた。
黒人男性がもう一人。
それとラテン系、白人系の男性が数名。
彼らは僕が日本から来た事を知り、たくさん話をしてきてくれた。
全員英語が得意という訳ではないけれど、一生懸命知っている単語で話してくれる。
僕がスペイン語を話すのと、おそらくは同じくらいのレベルかもしれない。
僕はしばらく彼らとの会話を楽しんだ。
消えた男達。そこに残されたのは僕と一人の黒人男性
しばらく話をしていると、彼らは酒を買いに行ってくるから一緒に飲もうと言ってきた。
時間は23時半。
少し夜も遅くなっていたけれど、僕は彼らと話をもっとしたいと思った。
キューバ人の所得の事にかんして僕はあまり詳しくなかったけれど、きっとそんなに高くはないだろうなというのは感じていた。
社会主義国家キューバ。
アメリカとの国交断絶をしていた事も影響しているのか、物資も不足している。
『僕がお酒のお金を出します。美味しいラムを飲みましょう』
僕は手持ちのお金を10CUC彼らに渡した。
『ありがとう。じゃあラムを買ってくるよ』
そういって男性3人がラムを買いに出かけた。
その場に残ったのは僕と小柄な黒人男性。
僕らはその場で30分ほど待った。
しかし、彼らはまったく帰ってこなかった。
僕はその時こう思った。
“きっとあの10CUCを持って他の3人は帰ってしまったんだろうな”
キューバでの10CUC(1200円程)は大金とまでは言わないけれど、若者達のお小遣いには充分かもしれない。
『君の友達はもう帰ってこないかもしれないね。僕のお金を持ってどこかへ行ってしまった』
僕は小柄な黒人男性に伝えた。
『きっと、まだお酒が売っている場所を探しているんだよ。夜遅いから開いてないのかもしれない』
そうかな。いや、きっとそんな事ない。
彼らは僕のお金を“持ち逃げ”したんだ。
『僕はそうは思わないよ。彼らは最初からお酒を一緒に飲むつもりなんかなかったんだ』
お金を渡したのは僕からだ。
ひょっとしたらあの時お金を渡していなかったら、彼らは自分たちのお金でラムを買ってきたかもしれない。
けれど、僕がお金を出した事で気持ちが変わったんだろう。
“お金を持って逃げよう”
僕らは近くのスーパーらしき場所をいくつかあたってみた。
そこにはラムも売っていた。
ほらな。お酒を売ってる場所なんてすぐ見つかるじゃないか。
僕が悪い。君が悪い。いや誰も悪くないのかもしれない。
『ごめん。僕の友達が君のお金を持っていってしまって』
小柄な黒人男性は僕にそう言ってきた。
『これ、僕が今持っているお金。足りないけれど、これで許してくれないかな』
そう言って彼は5CUCとわずかばかりのCUPを僕に渡した。
(キューバには通貨が二種類あり、ツーリストが使うCUCとは別に、キューバ人の中で流通しているCUPという通貨が別にある)
『いや、いいよ。僕が渡したんだから』
僕はそう言ってそのお金を彼に返した。
『僕の友達は悪いやつだ』
彼はそう言って涙を流し始めた。
普段は仲がいい友達同士なんだろう。
けれど、こんな事で僕は彼らの友情を潰してしまったのかもしれない。
『そうかもしれない。けれど、そうじゃないかもしれない。僕にとっては悪い人たちだけれど、君には大切な友達かもしれないから』
お金を持ち逃げされてしまった事は残念だ。
けれど、それは僕が勝手に渡したお金。
悪いのは僕の方かもしれないし、彼らの方かもしれない。
そんな事はどうでもいい事なんだろうとも思う。
だってそこには一人の涙を流す、友人に裏切られた男がいたのだから。
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