ギリシャにある美しい島サントリーニ。
おそらくすべての女性が憧れる、その島は、毎日たくさんのカップルが訪れ結婚式を挙げているんです。
その美しさは本当に惚れ惚れするもの。
同じ風景はきっと世界中どこにも存在しないだろうと思う。
けれど、あまりのその美しさに僕はこんな風に思ったんです。
男子お一人様禁止
男があんな所に一人でいっちゃあいかん。
景色に飲み込まれるぞ。
それより何より、孤独で死に絶える。
だってまわりはカップルばかりだからね。
けれど、僕はサントリーニへ行った。
あぁ、もちろん一人で行った。
僕には当時、一緒にサントリーニへ行くような恋人はいなかったからね。
けれど、僕はサントリーニで恋をした。
憧れの国ギリシャ。パルテノンは想像していたものと違っている。
僕は世界遺産が好き。
それは旅をはじめた時からそう思っていた。
一番最初に感動した世界遺産はカンボジアのアンコールワットだった。
それ以降、僕は世界遺産に魅了され、海外へ行く度に世界遺産を求めるようになっていた。
世界遺産を見にいくというのが僕の旅の同期だったのかもしれない。
そんな僕が次の旅先に決めたのがギリシャ。
UNESCOのシンボルにもなっているパルテノン神殿。
僕はそれがどうしても見たかった。
だってUNESCOのシンボルなんだろ?
世界遺産の学級代表みたいなものじゃないか。
その場所に世界遺産好きな僕が行かないなんて事のほうがおかしいさ。
そう思い、決めたギリシャへの旅。
僕は特にギリシャの事を知っている訳ではなかった。
行き先はアテネ。
それだけが決まれば十分だ。
アテネは想像通りの場所だった。
街中を歩けば、あちこちに古代の遺跡が存在していた。
この場所に昔、アクロポリスという都が栄えており、多くの人が暮らしていたんだという事を想像するのは容易い事だと思った。
遠くの丘からパルテノン神殿が見える。
夜の暗闇に浮かび上がるライトアップされたパルテノン神殿。
それは僕の期待をますます膨らませていく。
けれど、翌日僕が見たパルテノンは僕が想像していたものとは違った。
あちこちが修復中。
いや、まるでそれは新しく建設をしているのではないかと思う程のものだった。
あちらこちらが新しいものにすり変わり、元あったものは博物館へ。
まぁ、歴史的価値が高いものだから仕方ない、そんな風には思うけれど、それはあまりにも僕が想像していたものと違っていた。
色も形も匂いも空気も。
その場を取り囲むすべてのものが僕を感動させるものではなかった。
こんなの僕が見たかったものじゃない。
お一人様でのエーゲ海クルーズはいかが?
パルテノンに気を落としていた僕は、この先アテネにいるかどうか悩んでいた。
アテネ近郊にはまだまだ見所はある。
違う街に行く事だってできる。
そこには、アテネ同様古代の遺跡がいろいろあるんだから。
そこに行けば何かが変わるかもしれない。
パルテノン以上に感動するものがあるかもしれない。
もっとも、僕はパルテノンに感動をしていなかったのだけれども。
どこに行こう。
そう悩みながらギリシャを検索していると、サントリーニ島という文字をよく見かける事に気づいた。
写真を見て僕はすぐに決めた。
“遺跡より島巡りだ”
エーゲ海をクルーズする。
そんなリッチな事、なかなか経験できないだろう。
それに今の僕の気持ちを回復させるにはそれくらいの贅沢がちょうどいいんじゃないかと思った。
正直に言うと、リゾート地にあまり興味はない。
そんなリゾートを楽しめるような人間ではないと僕自身僕の事を理解していたし。
なんといっても僕は今一人だ。
サントリーニ島を調べていると、必ずブライダルや結婚、カップルなんていう言葉が付属品としてついている。
まったく僕には関係のない単語。
むしろ一生縁がないんじゃないかとも思うくらい。
けれど、僕はサントリーニ島へ行く事を決めた。
急に決めたので料金もそこそこする。
その美しい島が僕に感動をもたらすかという保証もない。
しかし、僕にとってそんなのは今どうでもいい事なんだ。
僕が今したい事は、非日常に飛び込む事だから。
こ汚いバックパッカーの僕がエーゲ海クルーズ。
しかも男性お一人様だ。
これ以上の非日常なんてきっとないだろう。
僕はチケットを予約した。
船上での出会い
アテネには港があり、そこからサントリーニ島への船が出ている。
早朝に宿をチェックアウトし、電車に乗ってピレウス港へむかう。
港にはたくさんの大型客船が停泊していた。
おそらく、色んな国からクルーズでここまでやってきたんだろうなぁ。
ディズニークルーズやピースボートなんかもあるんじゃないか。
僕が乗る船もなかなかの大きさ。
けれど、サントリーニ島まではそんなに遠くない。
早朝に出発すれば、昼過ぎには到着する。
なので、船内に部屋をとるわけでもなく、好きな席に座ってゆっくりと船旅を楽しむようなものだ。
それくらいがちょうどいいだろう。
あまりに豪華すぎるのと船内で着る服まで気を使わなくてはならなくなる。
僕はそんな服を持ってきてはいないし、クルーズのために買うなんていうのももったいない。
そもそも船上でダンスパーティーなんかが繰り広げられたらどうする。
一人で船に乗ってるんだぞ。
一体誰をリードすればいい。
まぁ、誰かをリードできるほど社交ダンスができるわけじゃないのだけれど。
さてと、できれば外を見やすい席に座りたいな。
出港したらきっとあちらこちらへと移動をするんだろうけれど、最初くらいは外が見える席にいる方がなんとなく良さそう。
もちろんそこに損得があるわけでもなく、あくまでも“なんとなく出港の時は外を見ている方が良い”という気持ちがあるだけなんだけど。
僕は外が見えるボックス席を見つけた。
大体は家族連れの人が座っている。
けれど、そこまで船はいっぱいじゃない。
僕は一人だけどボックス席を使っても大丈夫だろう。
そこに座り、本を開く。
出港するまでの数十分だけれど、まだ船は動いていないし、外の景色は特に変わりはない。
動き始めれば本を閉じ、景色を眺めよう。
『ここはあいていますか』
そう誰かが尋ねてきた。
綺麗な英語の発音。
“海辺のカフカ”のその先は言ってはいけないストーリー
『ええ、あいていますよ』
そう答えながら、その人を見た。
そこには小柄な白人の女性が立っていた。
小柄といっても160cmくらいはあるだろうけれど。
なんせ、僕が知り合った白人の女性は大半170cm前後だったし、ヒールなんて履こうものなら確実に僕よりも大きくなる。
なるほど・ザ・ワールドの愛川欽也と楠田絵里子みたいに。
その女性は僕の目の前に座った。
そして外を見ながら本を一冊取り出した。
僕はその本を知っている。
『あ、それ僕も今読んでいます。海辺のカフカ』
彼女が持っていたのは村上春樹の“海辺のカフカ”の英語版。
ちょうど僕も今回の旅で読もうと思い持ってきていた本だった。
『そうなんですか。どこまで読みましたか?』
彼女は僕にそう尋ねてきた。
答えてもいいものだろうか。
そこまで彼女はまだ読んでいないかもしれない。
それに僕がちょうど読んでいるシーンは…
なんというか言葉にしにくいところ。
いや、英語にするのは簡単なんだけど。
Cutting head of cat
そういえばそこまで読んでいる人なら想像はつくだろう。
もし読んでいなければ、一体どんなシーンがこの先待っているんだろうと思うかもしれない。
『ジョニー・ウォーカーが出てきたところです。』
『あ、猫の頭を切るところね。私はあのシーンがとても好きです。なんというか、不思議な空間を読んでいると感じて。まるで私もそこにいるみたいに』
『僕も。ちょうどそのシーンを昨日の夜読み終えたところです。怖くてハラハラするんだけれど、読み出すと止まらないような。一気に読み終えたいけれど、まだ続いていてほしいような』
『私は一度全部読んでしまったんです。けれど、好きな本だからもう一度読みたくて』
『その先は言っちゃダメですよ。まだまだ僕には田村カフカがどうなるのかわかっていないんだから』
僕はこうして彼女と出会った。
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