素敵な思い出たっぷりなマダガスカルの旅。
気持ちよく終わるはずだった。
けれど、空港でその状況は一変してしまった。
事の発端は先が丸まったハサミ。
機内持ち込みが可能なはず。
これは世界共通の認識だろう。
けれど、それはマダガスカルでは通用しない。
仕方なくメインバックに入れ直す僕。
再び荷物チェックを受ける事に。
もう何もない。
そう思っていた。
けれど、次は折り畳み傘がひっかかった。
なぜ。なぜそれを1度目の時に言わないんだ。
そう伝える僕を見て笑う職員。
不快でしかない。
空港職員への叱責。
始まる口論。
そこへやってきた警察官らしき人物。
彼がきた目的は仲裁ではなかった。
お前は今日マダガスカルを出国できない。
警察官らしき男が僕らの近くへやってきた。
ひょっとしたら僕らが口論している報告を受け、仲裁に来たのかもしれない。
僕は口論をしてるつもりはなかった。
彼らが言う事に対し、それの返答を(まぁ、かなり強い言い方だったかもしれないけれど)していただけだ。
彼らに対し、クソ野郎だとかケツの穴だとかそんな言葉ははいた覚えはない。
『何があったかは聞いている。とにかくついてこい』
警察官がやってきた理由は仲裁なんかではなかった。
ただ、僕を捕まえる事。
それだけが彼がここに登場した理由だ。
まったく、なんていうスペシャルゲストをマダガスカルの空港は用意してくれるんだ。
これじゃあ僕が悪者みたいじゃないか。
そこで抵抗をしても仕方ない。
僕は警察官についていった。
そこで事情を話せばいい。
だって僕は何も悪い事をしていないんだから。
僕がやってきたのは空港内にある警察官の待合の場所らしき所。
中にはもう一人警察官がいる。
僕は事情を説明しようとする。
けれど、その前に僕をこの場に連れてきた警察官が衝撃的な言葉を言った。
『お前は今日の飛行機乗る事はできない』
いったいどういう事だよ。
なんだ?欠航か?違うだろ。
僕だけが乗れないっていいたいのか。
『どういう意味ですか。説明してください』
『お前はマダガスカルを出国できない。させれない』
くそ。
させれないって事はやっぱり対象者は“僕だけ”って事か。
お次は法廷でお会いしましょう。なんてバカな話はやめてくれよ。
『僕が出国できない理由はなんですか。何か僕が悪い事をしましたか?』
『お前は、傘で職員を殴りかかったそうだな』
僕のリスニング能力が落ちたのか、もしくは耳くそが異様なまでにつまっているのかはわからないけれど、事実無根の話をその警察はしているようだった。
『僕は殴りかかってなんかいません。いったいどこからそんな話があったんですか』
『空港の職員がそう言っていたぞ』
なんだよあのクソ職員達。
得意なのはおしゃべりとさぼり以外に虚偽報告まであったのか。
クソ職員なんていう言葉さえもったいない。
彼らに職員なんて言葉をつける必要なんかなにもない。
ただの“クソ”でいい。
『それは嘘です。僕は殴りかかってなんかいない。
手に傘は持っていたけれど、それを持って彼らに近づいてもいない』
『しかし、彼らはそう言っている。
お前は今日マダガスカルから出国できない。
裁判をするからな』
なんだ。
裁判か。
いつの間にやら僕は裁判沙汰に巻き込まれていた。
気持ちとしては被害者気分だけれど、まぁ加害者側として法廷に立つ事になるんだろうな。
いや。
意味がわからん。
なんで僕が裁判に行かないといけない。
まぁ、裁判に行った所で僕は圧勝するつもりでいるけれど。
問題がある。
『裁判ですか。わかりました。大使館に連絡してください。
弁護士をつけてもらいます。
僕はフランス語ができませんからね』
弁護士を要請する事は可能なはず。
それに費用がかかろうとも、裁判に勝てば問題はない。
実際に僕は殴りかかってはいないし、裁判沙汰にするのであれば状況証拠なりを集めるだろう。
集めるよな?
なぁ、マダガスカル。
それくらいの常識はあるって思っていいんだよな。
届かない手紙。
『裁判をする事は構いません。
マダガスカルに滞在するのが伸びるのもまぁいいです。
ただし、状況がどういったものだったのか、空港職員からの声以外を今聞く必要があると思いませんか。
僕は絶対に殴りかかってない。
ビデオカメラがあるならば、それを見てもいい。
それに僕の後ろには僕と同じツーリストがいた。
僕は英語で話をしていたので、きっと彼は僕の話を理解している。
もちろん空港職員の態度も。
仕事状況も彼らは見ているだろう』
僕はどれだけ肝っ玉がでかいんだろうか。
警察に連行された所でなんとも思っていない。
それもそのはず。
だって嘘をついているのは僕じゃない。
空港職員だ。
『ただ、僕はマダガスカルに一緒に来た友達がいます。
彼らに僕が飛行機に乗れないというのを伝えてください』
『なぜ、そんな事を私がする必要がある』
『彼らが心配するかもしれません』
『そんな事はできない。ここで待っておけ』
そういって警察官はどこかへいってしまった。
僕のカバンの中には折り紙とボールペンが入っている。
とにかくなんとかして友達に知らせないといけない。
僕は折り紙に手紙を書いた。
“なんやわからんけどけいさつつかまったー!!
たすけてー!!
うそです(笑)
多分フライトはまにあわんので、
レソト行っといて下さい”
いったいどうしたらこんな文章がかけるのだろうか。
僕は今警察につかまっているんだぞ。
まぁ、これくらいどっしり気構えしていないと世界を旅する事なんてできないのかもしれないけれど。
それにしても図太いというか、なんというか。
『この手紙を渡してください。
日本人は多くないはずです。』
僕はもう一人の警察官にそう伝えた。
けれど彼はそれを受け取りはしなかった。
今からお前を本署に連れて行く。え?お前はもしかして僕ですか。
しばらくしてもう一人の警察官が戻ってきた。
手には折り畳み傘。
僕のものだ。
『お前はこれで殴りかかろうとしたんだな』
『なんども言いますが、僕はなぐりかかってはいません。
ビデオはありますか?
ビデオがあるなら見てください。
もしないなら他のツーリストに聞いてくれたらいい。
僕の友人はもうゲートの向こう。
僕の周りにいたツーリストは僕と何も関係のない人たちです。
僕をかばうために嘘なんてつかないでしょう』
僕はこういう時だけ英語が堪能になる。
自分の身を守るために人は自分でも思ってもいなかった力を発揮するらしい。
キン肉マンを見ていてそれを学んだ。
どうやらそれを“火事場のクソ力”というようだ。
まさかマダガスカルの空港でキン肉マンを思い出す事になるとは。
『とにかく、僕がここに残る事はかまいません。
裁判に出ろというならそれでもいい。
とにかく僕の友人に僕が飛行機にのれないというのを伝えてください。
それと、僕は今まで泊まっていた宿にもどります。
裁判の連絡でもなんでもそこにしてきてください』
『お前を今から本署に連れて行く』
今から?本署に?連れて行く?
は?僕をか?
空港職員は仕事をサボる癖に、お前ら警察は驚くほどスピーディーに仕事をするんだな。
身なりがスーツをきた男性。はたして彼は僕の救世主なのか。
『本署でもなんでもいいけど、僕は牢獄みたいな所にいれられる覚えはない』
僕はとりあえず牢獄みたいな所にぶちこまれるのだけは避けたかった。
世界一周のいい経験?
いや、そんな風には全然思わない。
悪い事をしてもいないのに、どっかに収容されてしまうなんてごめんだ。
『まぁ、1週間くらいは動けないと思っておけ』
おい。
1週間もなんで動けなくなるんだよ。
僕にとっての1週間はとっても貴重なんだ。
どこかの宿にいてネットでもしながら映画を観れるならそれでもいい。
けれど、動けないっていうのはどういう意味だ。
拘束か?縛るのか?お前は変態か?
こうなってくると面倒だな。
裁判でもなんでも構わないとは思っているけれど、どっかにぶち込まれてしまうのは不本意だ。
『早く誰か証人を見つけてきてください。
僕が嘘をつく可能性と職員が嘘をついている可能性。
今なら50%でしょう。
職員が嘘をついて僕が殴りかかったって言ってる可能性がまだ残ってる。
それを証言してくれるのは僕の周りにいたツーリストです』
そう言っても警察は何も言わない。
動かない。
きっと都合が悪くなるのを恐れてるんだろう。
いや、薄々感づいてるかもしれない。
嘘をついているのは僕ではなく職員だと。
警察だって空港職員の仕事の仕方は見た事があるはず。
まぁ、あの仕事っぷりがマダガスカルの一般的なものなのであれば、警察は何も感じないだろうけれど。
それでも警察がもしもまともなのであれば、彼らの仕事っぷりに何かしらの違和感だって感じるはず。
そして僕が言ってる事が正しいと気づくはず。
まぁ、そんな期待をしても仕方ないけれど。
すると、僕がいる警察の待合室のような所に一人の男性が入ってきた。
スーツを着ている男性。
身なりがしっかりしている。
なんだ?警察の本署の人とやらが僕を連れに来たのか?
彼が発した言葉。
僕はその言葉に驚いた。
彼は僕の救世主。僕はもう荷物チェックをうけたくありません。
『空港の職員が失礼な事をして申し訳ありません』
身なりがしっかりした男性は僕にそう言った。
『折り畳み傘を持ち込んではいけないという規則はありません』
彼はそうとも言った。
『そして、仕事をしていないのを指摘してくれた事ん感謝します』
なんだこの展開。
嘘みたいに彼がまともだ。
『いえ、僕も言いすぎたかもしれません。
マダガスカルの文化や国民性を理解していないのは僕です。
それにフランス語が話せないのも僕が悪いです』
まぁ、一応こういうべきだろ。
こういう時は。
ここで調子乗って
『お前の教育がなってないからこんなことになったんだろ!』
なんて喚き散らすほどバカではない。
まぁ、気持ち的にはそう思ってたりもするけれど、この身なりのしっかりした男性は本当にいい人そうだった。
上司としてというよりは、人がいい。そんな気がした。
『私があなたをゲートまでお連れします。
飛行機に乗ってください。
あなたが乗るのを待たせています』
出発時刻はもうすぎていた。
飛行機はもう飛んで行ったかもしれないなぁと思っていた。
けれど、飛行機はまだ飛んではいなかった。
『もう荷物チェックは受けたくありませんよ』
『もちろんです』
僕のサブバックは本日5度目のX戦検査を受けずにすんだ。
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